Birth〜誕生〜「どうして、、、」2008-09-08 Mon 02:25
Birth〜誕生〜
・「どうして、、、」 「どうしてみんなで?なんで僕一人だけを・・・。」 大酒飲みでギャンブル好きの父、酔っ払って帰って来ては相変わらず毎晩のように喧嘩。依然、母と兄弟三人で親戚、知人宅にお世話になる事もしばしば。 そんなある日、父方の祖父母が家に来た。 5人暮らしの狭いアパート、二番目の兄と真也は二段ベットの様に押入れの上と下で寝ていた。そんな姿を見た祖父母が「あれじゃ、子供たちがあまりにもかわそうだよ!」と哀れみ、祖父母の家の隣に建てたばかりの新築の家に越してきなさいと言ってくれたのだ! 祖父母の家には良夫おじさん夫婦と雅おじさんの5人で住んでいて、新築の家はまだ結婚していない雅おじさんが結婚したら住むつもりで建てた家だった。その時はまだ結婚の予定もなく空き家となっていた。 祖父母は真也たち兄弟が可哀想だからと言っていたが、父の酒乱ぶりに暴力、夫婦喧嘩が絶えない事を知っていた様で、親や兄弟の傍に住めば、真也の父も早々バカな真似もしなくなるだろうという気持ちも持っていてくれたようだ。 そして、祖父母の思うとおり、父の様子は随分と変わった。酔って帰る事もしばしばありはしたが、以前に比べたら雲泥の差だった。 真也にとってはとても嬉しい引越しとなった。これまでの狭いアパートから洋室、和室、ダイニング、お風呂にはシャワーまで付いている。そんな事より何より父が変わってくれた事が何よりだった。 そして真也は小学校入学を迎えた。 学校では友達も多く、毎日が楽しかった。 小学生といえどもまだ一年生、ちょっとした事で泣いたりしてしまう生徒も多かった。「おなかが痛い」「帰りたい」だの、ちょっと転んでは、ちょっと先生に叱られてはみんな泣いていた。けれど真也はそうではなかった。保育園のあの時以来、真也は泣くのを止めた。笑顔でいると。 男の子同士の喧嘩もしばしばあるが、真也は不思議とその中にはいなかった。 同じクラスに祐介というガキ大将的な子がいた。彼は少年野球チームにも入っている上に空手も習っている喧嘩が強い子だった。彼と真也は仲が良くいつも一緒に遊んでいた。 そんな彼が先生に凄い勢いで叱りつけられ、ついには泣いてしまった。クラスのみんなの前で初めて泣いてしまったのだ。 このクラスで泣いた事のないのはただ一人。真也であった。 クラスの誰もが知っていた。もちろん祐介も。 いつも笑顔で人に嫌われる事もなく、喧嘩とは無縁であったし、特別、先生に叱られるようなこともなかった。もちろんみんなと同じ年、泣きそうになる事もあったが我慢していたのだ。真也には「涙」というものが人に影響を与える事を知っていたからだ。 いつしかクラスのみんなが真也を泣かせようと、ふざけるようになった。「いじめ」とはまた違うのだろうが、悔しいと思いつつも泣くのを我慢した。 そんなある日の事である。休み時間に数人にからかわれている真也のもとに、あの日以来大人しくなっていた祐介が近寄ってきた。すると真也をからかっていたクラスメイトの一人が『真也の奴、全然泣かないんだよ!やっぱり祐介じゃなきゃ!頼んだぜ!』と祐介をはやし立てる様に言った。真也はいい加減腹が立ち彼らに手を挙げそうになった。しかし祐介はそんな言葉など聞きもせずにただ真也に借りていたノートを返し、そのまま自分の席に戻ろうとした。すると彼らは『情けねぇな祐介!こんな奴とやりあってまた泣くのが怖いのかよ!』と馬鹿にした口調で祐介に向かって罵った。その言葉を聞いた真也は我慢していたものがぷつりと切れ、そのクラスメイトの胸ぐらを掴み、拳を構えた。その瞬間、祐介は真也の拳を押さえ『やめろ!こんな奴ら相手にすんな!ほっとけよ!』と真也を止めた。冷静さを取り戻した真也は自分の席に戻った。しかし事はここで終わらなかった。 そのクラスメイトは自分の席に戻ろうとする祐介の肩を掴みかかった。祐介には喧嘩する意思はなく掴まれた手を振り払った。その振り払ったクラスメイトの手が偶然にも真也の顔に当たってしまったのである。自分の鼻から血が出たのがわかると、真也は鼻血を出している見っともない顔を見られたくなかったので、手で顔を覆い、下を向いた。『あっ!ついに泣いたか?』クラスメイトの声。しかし真也は泣いたのではない、ただ恥ずかしい顔を見られたくなかっただけだった。気が付くと真也の周りにはクラスのみんなが寄ってきていた。そのうちの一人が真也が泣いていない事に気付き、『まだ泣いてないよ!でももう泣きそうだぜ!』と言った。しかし、鼻血こそ出たものの痛い訳でもなんでもない。泣くほどのもんでもなかった。だけれどうつむく事しかできなかった。 いつしか一人、二人と『泣け!泣け!』と、、、。そのうち声を揃え、クラスのみんなで真也に向かって『泣け!泣け!』のコールを浴びせた。 「痛い訳でもなんでも無いのに何で泣かなきゃいけないんだよ!」 ――相手にしなきゃいいじゃん!祐介の言うとおりほっときゃいいんだよ―― 「だけど・・・。」 ――だけど何?―― 「どうして?なんで・・・。」 「どうしてみんなで?なんで僕一人だけを・・・。」 ――みんな君とは違って子供なんだよ考えが!―― 「大人しい女の子達までもがだよ!鼻血出てるんだよ!心配してくれる人は誰もいないし、何か悲しいよ!」 ――たった一人の君にみんながなんて悲しいよね!悲しい気持ちを出しちゃっていいんじゃないかな?強がる事なんてないよ!みんな子供なんだよ!君が泣けばそれでもう満足なんだから悔しがること無い!君も少し子供にならなきゃ!子供らしく―― 「でも悔しいよ!そんなの!泣きたくなんかないよ!泣けないよ」 両手で顔を覆ってうつむいていた真也の指の隙間から赤い血がポツリと落ちた。その血を目にした祐介が途端に真也に向けコールを浴びせる男子生徒を次々と殴り飛ばした。そして『今、泣け泣け!言ってた奴、全員真也に謝れ!』と怒鳴った。すると次々にみんな謝りだしたのだ。そして、真也の目から涙がこぼれ落ちた。裕介が怖くて謝った生徒がほとんどで、真也に対して悪いと思い謝ったのは少数だろう。 裕介は真也の肩に腕を回し、血と涙でぐしゃぐしゃな顔を洗いに洗面所まで連れて行った。 「僕はなんで泣いちゃったんだろう?痛かったわけでもない、みんなで攻め立てたのが辛かったんでもない!わからないけど強がることなく気持ちが涙として出ちゃった。」 ――それで良かったんだと思うよ!―― ――みんなじゃない、裕介は違ったね。―― ――君には裕介がいたんだよ!たった一人じゃない!それがうれしかったんだよね!―― ☆ランキング参加中!! 良かったらクリックお願いしますね! テーマ:うつ病(鬱病)、メンタルヘルス - ジャンル:心と身体 |
〜誕生〜涙(なみだ)2008-09-01 Mon 18:25
Birth〜誕生〜
・涙(なみだ) ――聞かなくても、君にはもうわかっているはずだよ!それをしてごらん―― 父が内装品販売から内装工事の仕事に移った為、これまでの店舗兼住まいから引っ越すこととなった。。新しい家は台所と6畳の2間の古臭いアパートの二階。 真也は保育園に入園。これまで家族以外で遊んだのはゆう君だけだった真也にとっては新鮮で楽しい毎日だった。そして母は駅前のスーパーにパートに出るようになった。 保育園では定刻になると殆どの子供達は親が迎えに来て帰っていく。 これまで他人の家庭がどうかなんて知ることの無かった真也にとって、『ママ!今日はスーパーで○○のオマケの付いたお菓子買って帰ろう!』『今日のご飯は○○ちゃんの大好きなハンバーグにしようか〜』他の親子の会話でいつから、他の子たちがうらやましく思えてきていた。 定時に迎えに行けない家庭の子供達は、”おのこりさん”と呼ばれ、積み木、折り紙、お絵かき、保母さんに絵本を読んでもらうなどして迎えを待った。 楽しく遊びながらも、一人、また一人と帰って行く。 気が付くと残っているのは真也を合わせて3人くらい。迎えが最後になる事も多かった。 保母さんから『真也君、泣かないの!もうすぐお迎えくるからね』という毎日になった。真也は、怒られては泣き、転んでは、少し擦り剥いては泣き、何かあるとすぐ泣く、かなりの泣き虫だった。 そんなある日、現場研修という事で新しい保母さんがきた。おのこりさんの面倒もこれまでの保母さんに加え彼女と二人で見てくれる事となった。彼女はとても優しく、いっぱい遊んでくれて真也はとっても好きだった。毎日が楽しくなった。 ある晩の事、父の怒鳴り声が聞え、真也は目を覚ました。寝ぼけながらも声のする方へと目をやった。すると怒鳴りながら母を叩く父の姿が見えた。母の目からは沢山の涙が。兄達には幾度と無く、目にしてきた光景だったのだろう。耳を押さえながら怯えるように布団に潜っていた。真也にはその光景があまりにも怖く感じて泣き出してしまった。母は真也を抱きかかえ『ごめんね!起こしちゃったね。怖くないよ、大丈夫だからね』と涙をぬぐって無理に笑顔をつくりながらそう言った。父は何も言わず家を出て行ってしまい、その日は帰ってこなかった。この日はじめて両親の夫婦喧嘩を見た。そしてはじめて母の涙を見た。 その後も頻繁に夫婦喧嘩は起こった。いつしか真也も兄達と同じく、両手で耳を塞ぎ、怯えながらただ事態が過ぎ去るのを待つようになっていた。時には、母にむかって酒臭い父が『出てけ!!』と怒鳴り、母と兄弟三人は夜中に家を追い出され、親戚の家に泊まったり、母のパート先の同僚の家に泊めてもらうなど度々あった。 そんな日々の中の保育園での出来事。 その日は何故だか残っている園児がいつもより沢山いる。その為に、毎日いっぱいかまってくれる大好きな保母さんがぜんぜんかまってくれない。真也はどうにか気を引こうと紙飛行機を彼女に向かって飛ばしたり、服を引っ張ったりといろいろと試みた。『先生!おんぶして!』とお願いするも『ちょっと待っててね!後でしてあげるからね』とあしらわれてしまった。 どうにかかまってもらおうと、立っている彼女の背中に飛び乗った。『こらこら、危ないから降りて』と言われるも、そのまましがみ付く真也。『どうしたの?今日は?いつものいい子の真也君じゃないね〜』確かにその日の真也はいつもと違っていた。 「いつもと違うのは先生だ!」 ――どうしたんだよ?いつもの優しい先生じゃないか!―― 「他の子ばっかりかっまて、あの子たちはいつもならとっくに帰っている子達じゃないか」 ――君もそのみんなと一緒に先生と遊べば、もっと楽しいはずだよ―― 「あの子達は家でもいっぱい!いっぱい!お父さんやお母さんにかまってもらえたり、甘えられるところがあるじゃないか!僕にはここしかないんだよ!先生しか!」 「ねぇ!かまってよ先生!!!!」 真也は無意識の内に彼女の背中に乗ったまま、両手で彼女の髪の毛をグシャグシャとかき乱し、バカ、ブス、デブなど汚い言葉を噴きかけ、髪の毛を引っ張っていた。 『やめなよ!先生泣いてるよ!』と他の子の声が聞えた。真也はサッと背中から降りると涙を流し泣く彼女の顔が見えた。そしてうずくまる彼女の脇に真也はただ呆然と立ち尽くすままだった。 「僕は先生を泣かせてしまった。お父さんがお母さんを泣かせたように・・・。」 ――そうじゃないさ。先生を泣かせてしまったのは事実だけど、両親の喧嘩とは違うよ―― 「一緒だよ!僕はあの時のお父さんと一緒だ・・・。」 翌日、彼女はいつもの様に優しく接してくれた。でも真也は昨日の出来事、両親の喧嘩の恐ろしい光景が重なり合って罪悪感深まるばかりで、大好きだった彼女にうまく接する事ができなくなってしまった。 数日後、彼女は昼間の保育の担当になった。受け持つクラスは真也のクラスではなかったのでそれ以来、接する事が無くなった。 おのこりさんの時間は保母さん一人の以前の状態に戻った。でも真也は変わってしまった。その保母さんの好きだったけれど、なぜか接するのが怖くなってしまったのだ。 迎えが来るのが最後になる事がほとんどだったから、保母さんは面倒を見ようと「〜して遊ぶ?」など声をかけてくれる。でも接するのが怖くなっていた真也は一人で折り紙する!とか、テレビ見たい!といって接する機会がないものをして過ごした。 他の子たちが帰ってしまった後は、折り紙を作たり、テレビアニメを見るのが日課になっていた。 ――君は折り紙うまくなったね。―― 「うん。他の子よりうまく、いろんなもの折れるよ」 ――折り紙うまくなったけど、一人で作ってて楽しい?―― 「・・・・」 ――楽しくないよね!じゃあ何で?あの先生の事?―― 「うん。だって僕はあの時のお父さんと一緒だ」 ――確かに泣かせてしまったという事では一緒かもしれないけど、君はただかまって欲しかったからあんなことしちゃったんだろ?―― 「うん。」 ――両親の喧嘩はもっと複雑で難しい問題だから君の理由とは違うんだよ。今の君にそれを説明しても理解できないだろうけど・・・。―― 「・・・・」 ――あの日、先生は泣いちゃったけど、翌日の先生はどうだった?君にいつものように優しかったよね?それは君があんな事をしたのは、ただかまって欲しかっただけってわかっていたからだよ!―― ――でもね、君が先生を好きなように、他の子も先生が好きなんだよ。それに先生は君の事を好きだけど、他の子の事も同じく好きなんだよ!だから独り占めなんてできないんだよ―― 「そうだね。わがままなことだよね」 ――君が持っているおもちゃ達とは違うんだよ、先生を自分だけの物になんてできないんだよ。それに人は物じゃないんだよ!―― 「僕はどうしたらいいの?」 ――先生はなんで泣いたと思う?君が髪を引っ張ったから?ちがうよ!先生は大人だもん君の力で引っ張ったからって泣くほど痛かったわけじゃない。いつも可愛がっていた君に酷い事を言われて傷ついたし、わがままな態度の君に悲しくなったんだよ。―― ――君は先生にしちゃいけない事、悪い事をしたよね?―― 「うん」 ――そういう時はどうするの?簡単なことさ―― 「そっか・・・」 「先生、ごめんなさい」 その翌日、彼女はいつものように母の迎えを待つ真也のもとにやってきた。『真也君!先生ね、今日でお別れなんだ』彼女は午前中でこれまでの研修が終わりだったのだ。母の都合で午後に来たしんやに挨拶をする為に待っていてくれたのだった。『これからもいい子でみんなと仲良くね』としゃがんで真也を抱き寄せた。そして立ち上がり『ありがとね。真也君!』と・・・。彼女の目には涙が溢れていた。そして真也に涙を見せないようすぐさま拭い笑顔を作った。 「先生のあの涙はなに?この前の涙とは違う!母が泣いていた時の涙とも違う」 ――涙にはいろんな涙があるんだよ!―― 「僕はどうすればいいの?」 ――聞かなくても、君にはもうわかっているはずだよ!それをしてごらん―― 手を振り教室を出ようとする彼女に『先生!ありがとう!』と、しんやも手を振った。 ――それで良かったんだと思うよ―― 「でも僕、先生にあのときの事謝れなかった・・・。」 ――大丈夫さ。先生はわかっているよ!君のありがとうという言葉にその気持ちが込められていた事を―― 「先生は何で僕に泣いているのを隠そうとしたの?お父さんと喧嘩して泣いていたお母さんも僕の前では笑顔を作って隠そうとしたよ!どうして?」 ――泣き虫の君がいつもわんわん泣いているように、先生もお母さんもあの時君の前でそんな風に泣いていたら、君はどう感じる?―― 「僕も悲しくなって一緒泣いちゃう!それに心配もしちゃう!」 ――そうだろ?君に悲しい想いや心配かけないようにって先生もお母さんも笑って見せたんだよ!君にはいつも笑っていてもらいたいんだよ!―― ――君があの時、先生を泣かせてしまったのは先生の心を傷つけてしまったからだよね?―― 「うん」 ――喧嘩でお母さんが泣いていたのも簡単に説明できないけど心が痛め付けられたからだ―― 「うん、なんとなくわかるよ!」 ――君がいつも寂しくて泣いたり、擦りむいていつも泣いたりしてるよね?そのとき家族や先生、友達は心配して優しく慰めてくれたりするよね?」 「うん!涙って周りの人にも影響を与えるんだね」 ――そうだよ!涙を流す人、その涙の原因を作った人、周りにいる人、それぞれにいろんな思いが出てくるよね―― 「すごくよくわかったよ!僕いつもいつも泣いてばかりだったけど、涙って簡単に見せちゃいけないね!」 「僕もう泣かないよ!」 「笑顔でいる!」 ☆ランキング参加中!! 良かったらクリックお願いしますね! テーマ:うつ病(鬱病)、メンタルヘルス - ジャンル:心と身体 |
〜誕生〜二人の僕2008-08-25 Mon 20:50
Birth〜誕生〜
・二人の僕 意識が薄れていく・・・ 真っ暗な闇。 「ごめんね。お母さん。これからも優しくしていてね」 『忙しいんだから、隣のゆう君と遊んでらっしゃい』忙しい母がよく真也に言っていた言葉だ。 真也が遊ぶといえば兄二人か一つ年下の近所のゆう君。もっとお母さんにかまってもらいたかったのだけれど、カーペット、カーテン等の内装品の販売店を経営していた為、父は配送や取り付け工事で店番は母の仕事で家事との両立で忙しかった。 そんなお母さんの気を引きたくて悪さをした。真也はゆう君を連れて近所のコンビニへ行き、組み立て式の飛行機のおもちゃを盗んだ。それは母の気を引きたかったからだ。叱られつつも泣いて甘えようというものだった。でもそれは期待していたものとは違った。 ゆう君はまだ盗みが何なのかも判っていないのに一緒に叱られておお泣き。『ごめんね、ゆう君。真也がいけないんだよね。泣かなくて良いよ。』母の胸で泣くのはゆう君じゃなく自分のはずだったのに・・・。真也はゆう君に母を取られたと思い込んでしまった。 数日後、いつものようにゆう君と遊ぶ真也。 坂道を三輪車で下っている途中にスピードが上がってしまいペダルの回転に足が着いていかず真也は転倒し放り飛ばされた。側溝の角に額をぶつけ、パックリと額が開いて血だらけに・・・。 近所のおじさんの車に乗り病院へ向かった。 「ここはどこ?」 近所のおじさんが運転している。助手席には母とその腕に抱えられながら額を抑えられている子供。病院へ向かう三人を乗せた車を正面から見ている。 「あの子は誰?」 ――あれは真也だよ―― 「シ・ン・ヤ?」 ――そうだよ。あれは真也。君だよ―― 『しっかりしなさい。もうすぐ病院着くからね。大丈夫だからね』と優しい母の声が聞こえる。『大丈夫だからね、真也。』 「お母さん!真也はここだよ」 「何でそんな子に優しくするんだよ!僕に優しくしてよ!」 気が付くと今度は診察台の上に仰向けで横たわる少年を上から見ている。 「お前は誰なんだよ」 ――あれは真也、君なんだよ―― 「僕が真也だ。僕のお母さんを取らないで!」 「お前なんて消えてしまえ!」 そう叫ぶと同時に意識が薄れていく・・・。 真っ暗な闇。 「あの子は誰なの?真也?」 ――そうだよ。―― 「じゃあこの僕はいったい誰?」 ――君も真也だよ。あの子も君も真也。どちらも君自身なんだよ。―― 「お母さんはいつも僕にちゃんと優しかったんだね。僕が気付いていなかっただけなんだね」 ――もちろんそうだよ。君にも君のお兄さん達にも同じだけね。―― 「ごめんね。お母さん。これからも優しくしていてね」 すると何処かに吸い上げられる様な感覚と共に額に激痛が走った。 真也は一時的に幽体離脱の状態になってしまったんだよ。車の中で母に抱かれていた少年、診察台に横たわっていた少年は真也自身の肉体。その少年を見ていたのが真也の魂だったのだ。 消えてしまえと叫んだ瞬間、魂だけが遠く離れた暗闇に行ってしまった。もしそこであの少年を自分自身だと気付かなかったら、これからもって考えなかったら、いつまでもあの暗闇を一人ぼっちで彷徨っていっただろう。 ――あの時、君が・・・―― ――僕もいなかっただろう―― ――君は強かったね。―― ☆ランキング参加中!! 良かったらクリックお願いしますね! テーマ:うつ病(鬱病)、メンタルヘルス - ジャンル:心と身体 |



